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桐生堂 : 桐生堂だ。みんな、息災だったか?
鹿取 こんにちわ。私は鹿取です。
桐生堂 : これは珍しい。鹿取ではないか。
鹿取 : こんにちわ。桐生堂さん。
桐生堂 : うむ。
今日は皆に招待状を出した覚えはないが…
鹿取 : はあ…招待状ですか?
桐生堂 : うむ。私が一般教養を得る為に、皆に出しているだろう?
鹿取 : はあ…ひょっとして、日時分と『来い』とだけ書いてある手紙のことでしょうか?
桐生堂 : そうだ。手紙を出しているのに、来るのは阿佐川のクズのみだがな。
鹿取 : …はあ…できれば、ご自分の名前と、集合場所を書かれた方が、人が集まると思いますよ。
桐生堂 : むー?そうなのか?阿佐川の奴はいつもやってくるので、不足はないと思っているぞ?
鹿取 : …それもそうですね。
桐生堂 : して、何故、鹿取はこの部屋に?
鹿取 : …はあ。それは話せば長い物語でして…zzz…
桐生堂 : 居眠りする為に寄ったのか?
鹿取 : …zzz…
桐生堂 : そのようだな。
鹿取 : …はあ…
桐生堂 : しかし、いきなり路上で寝るのは良くないと仙京院に言われたぞ?
鹿取 : …そうですね。
桐生堂 : 何故だ?
鹿取 : …はあ…どうしてでしょうか?
桐生堂 : ………やはり、私もまだまだということか。
鹿取 : …そんなことはないですよ。
何事も、頑張ろうという姿勢が重要です。
桐生堂 : しかし、結果が付いてこないのでは、意味がないではないか。
鹿取 : 継続は力なりですよ。あくせくしたってはじまりませんぜー
桐生堂 : 確かにそうかもな。
鹿取 : ところで桐生堂さんはどこか調子が悪いところはありますか?
これも何かの縁ですので、相談に乗らせていただきますが。
桐生堂 : うむ。
そうさな…最近…
鹿取 : …zzz…
桐生堂 : 最近…
鹿取 : …zzz…
桐生堂 : そうだ。阿佐川の奴が、何故か落ち着きを持って行動している。
鹿取 : …zzz…
桐生堂 : 奴が如何にして急激な成長を遂げたが目下の最大の懸案事項だ。
鹿取 : …はあ…問題なしですね…
桐生堂 : 何故だ!?
鹿取 : まあまあ。他人の芝生は青く見えるもの。
阿佐川さんがどう変わったところで、きっと桐生堂さんのことを気にしていますから。
桐生堂 : むー?そうなのか?
鹿取 : はい。きっとそうですよ。
桐生堂 : しかし、奴に保護者面されるのは非常に不愉快だが?
鹿取 : それでは、頑張って対等になりませんと。
桐生堂 : うむ。そして、奴が用済みになった時、焼却炉判定をするということだな。
鹿取 : …そうですね。
桐生堂 : それでは、今日も精進するとしよう。
して、鹿取が来たのも何かの縁よ。何か話を聞かせろ。
鹿取 : …はあ…そうですね…zzz…
桐生堂 : ………
鹿取 : …zzz…zzz…zzz…zzz…zzz…
桐生堂 : ………
鹿取 : ふう。すっきりしました。
桐生堂 : して、話は?
鹿取 : はい。私からもいいですが、まずは桐生堂さんから先に。
桐生堂 : むー!?阿佐川の時にも似たような空海になったぞ!
鹿取 : それは『空海』ではなく、『展開』ですね。
桐生堂 : 夏か…夏…夏…夏…
鹿取 : …zzz…zzz…zzz…
桐生堂 : 夏といえば、安曇と仙京院はどこまで行った?
鹿取 : ………お見事です。
素晴らしい話題選びですね。
桐生堂 : ふっふっふ。
鹿取 : それでは、私の方からお話しなどを。
桐生堂 : うむ。夏なので、脳漿を期待するぞ。
鹿取 : それは脳漿ではなく、納涼ですね。
納涼といえば、怪談に心霊スポットと恐い話が多いですね。
桐生堂 : しんれいすぽっと?
鹿取 : はい。幽霊が出るといわれている場所ですね。
夏になると、稲川順二という、そういう話専門のタレントさんや、使い捨ての若手芸人が大挙して押し寄せることで知られています。
桐生堂 : むー?亡霊なんぞ、夏でなくとも出るではないか?
鹿取 : …はあ。確かに。
ですが、大抵、そういう場所は人里離れているので、冬になると寒くて行く気が起きないのではないでしょうか?
桐生堂 : 随分と人間の思惑に左右される幽霊どもだな。
鹿取 : そうですね。
桐生堂 : して、怪談か。
鹿取 : 桐生堂さんは何かご存知ですか?怪談のお話は?
桐生堂 : そうさな…
知り合いに猫又と妖狐と化け狸がいるが…
鹿取 : 立派に怪談ですね。
桐生堂 : 彼奴らなど、まったく恐くないぞ。騒がしいだけだ。
鹿取 : …はあ…そうなんですか。
桐生堂 : 鹿取は何かないか?
鹿取 : …そうですね…zzz…zzz…
桐生堂 : 寝たか。
鹿取も、本当に良く寝る奴だ。
鹿取 : …は!…
桐生堂 : どうした?
鹿取 : 桐生堂さんが『むー!』と唸って、話を聞かせろー!と駄々をこねる夢を見ました。
桐生堂 : 私は斯様なガキではないぞ。
鹿取 : …そうですね。
桐生堂 : それで、何か思いついたか?
鹿取 : はあ…【メディチ家の呪い】…というお話をご存知でしょうか?
桐生堂 : むー…めでぃちけののろい…
西洋魔術の呪文…とか?
鹿取 : いいえ。違いますよ。
桐生堂 : 仙京院と安曇がどこまでいったのかを現す言葉…とか?
鹿取 : それも違いますね。
桐生堂 : いいだろう。話を聞かせろ。
鹿取 : …はあ…それでは、この話は次の機会に。
桐生堂 : すぐに話をしてくれるのではないのか!?
鹿取 : …zzz…
桐生堂 : むー!話を聞かせろー!
鹿取 : …は!?…桐生堂さんが『むー!』と唸って、話を聞かせろー!と駄々をこねる夢をまた見ました。
桐生堂 : 私は斯様なガキではないつもりだったぞ。
鹿取 : …そうですか。
それでは、お話を始めましょう。
桐生堂 : よし。始めろ。
鹿取 : イタリアのフィレンツェという街にある、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、サンタ・クローチェ教会、サンタ・マリア・デル・カルミネ教会、サンティッシマ・アンヌンツィアータ教会などで旅行者が突然、体調不良を訴えて倒れてしまうという原因不明の奇病が報告されました。
そこで調べてみますと、被害者の数は、偶然で片付けるにはあまりに多いことが分かりました。
時に、これらの場所は中世のフィレンツェで権勢を誇ったメディチ家に縁のある建物ばかり。
そして、そのメディチ家の権力争いが悲惨だったことから、この奇病は【メディチ家の呪い】なのではないかとささやかれました。

【メディチ家の呪い】を語る上で、欠かせない事件が『パッツィ家の陰謀』と呼ばれる暗殺未遂事件です。
15世紀後半、フィレンツェには二つの大きな銀行がありました。
一つは教皇庁の金融を担当していたメディチ家のメディチ銀行。
もう一つはそのメディチ銀行のライバルであるパッツィ家のパッツィ銀行。

規模もさることながら、教皇庁で重要なポジションにあったメディチ家はフィレンツェの支配者といっても過言のない状態でした。
そんな中、当時の教皇であるシクストゥス4世がフィレンツェに近い要所として知られるイーモラを買収します。
これが原因で教皇とメディチ家の当主であるロレンツォは対立するようになります。

こうしてメディチ家を嫌うようになった教皇は、教皇庁の金融を担当していたメディチ銀行の地位を剥奪。
ライバルで同じフィレンツェに本拠を置くパッツィ銀行に移します。
その結果、メディチ家とパッツィ家の対立は、銀行同士というレベルを超えた激しい権力争いに発展します。

そんな中、パッツィと関係のあるフランチェスコ・サルヴィアーティという人物がピサ大司教に任命されます。
当然、それを快く思わないロレンツォは赴任を妨害したといわれています。

この件を機に、一気にメディチ家を潰そうと画策するパッツィ家。
教皇黙認の元、メディチ家の当主であるロレンツォとその弟であるジュリアーノの暗殺計画を企てます。

計画が実行されたのは1478年4月26日。
フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂で行われたミサの席上、ピサ大司教とパッツィ銀行ローマ支店長が出席していたメディチ家のロレンツォ、ジュリアーノを襲撃します。
その結果、弟のジュリアーノの殺害には成功するものの、ロレンツォは負傷させるに止まります。

実行犯は捕らえられて即刻処刑されると共に、当然、パッツィ家関係者らへの報復も行われました。
その報服たるや、実に容赦の無いものでパッツィ家当主をはじめ100人近くが捕らえられて、死刑になったと言われています。
こうして、パッツィ家は滅亡しました。

ところが、後日、フィレンツェではメディチ家に処刑されたパッツィ関係者の幽霊が出るとか、その幽霊が人にとり憑いてを呪い殺す等の噂が流れました。
この幽霊騒ぎは【メディチ家の呪い】と呼ばれ、冒頭の奇病も、その再来というわけです。

話を本筋に戻します。
報告された奇病の症状は、嘔吐感を伴う軽い頭痛、その後、手足の痺れに続き、最終的には気絶するというものでした。
症状を訴えた旅行者はすぐに病院で精密検査を受けましたが、原因は不明とのこと。
しかも、入院して回復すると、再発しないということでした。
このことから、呪いはともかくとして、やはり建物と関係があることが分かります。

観光地として、呪いの風評被害を恐れたフィレンツェ市当局は市内の病院の医師をリーダーとした研究チームを発足、調査を開始します。
調査により、1988年から1996年までの8年間で、106人の被害者がいることが分かりました。
そして、1826年にフランスの文豪・スタンダールがよく似た症状に見舞われていることから、この奇病を『スタンダール症候群』と名付け、調査を続けます。
こうして、化学物質過敏症といったもっともらしい理由が考えられましたが、明確な答えは出せませんでした。

そんなある日、別の地域で『スタンダール症候群』によく似た症状が報告されました。
その地域とは、日本だったりします。
なんでも、ある主婦が美容院で散髪後、店を出ようとしたところで、嘔吐感を伴う頭痛と、手の先に痺れを覚え、そのままで気絶したそうです。

東京医科大学によりますと、これは『血栓による卒中』だとのこと。
散髪後、髪を洗うために首を長時間、後方に逸らした結果、椎骨動脈という血管が圧迫され、血の巡りが悪くなります。
こうして、巡りの悪くなった血は『血栓』と呼ばれる小さな塊となります。
再び首を元に戻すと、血栓が流され、脳内の毛細血管で詰まります。
これにより、嘔吐感、頭痛、手足の痺れに気絶が引き起こされたということです。

この場合、短時間で作られた血栓ということもあり、詰まってもすぐに解けて元通りになります。
その為、後遺症としてなんらかの症状が残る事はまずないそうです。

これと【メディチ家の呪い】を重ねてみますと、類似点が多く見受けられます。
大聖堂や教会は展示物が上方にあることが多く、旅行者はそれらを鑑賞するためには、常に見上げた状態であることが求められます。
これは髪を洗う時の首の状態と似ていますね。
そうなりますと、椎骨動脈の圧迫が起こると考えられ、血栓ができてしまえば、同じ結果となります。
しかも、観光という関係上、水分補給を怠って血中の水分が少ない状態ですと、血栓は出来易くなるため、美容院での時よりも血栓はできやすいと考えられます。

話は少々逸れますが、この症状は、一時期『エコノミークラス症候群』として日本で騒がれたものと同一です。
『エコノミークラス症候群』とは、エコノミークラスの旅客機に長時間乗っていた乗客が機内がから出る時に不調を訴え、最悪の場合はそのまま死に至るというものです。
こちらも同じ姿勢で長時間飛行機に乗っていたことによる血栓が原因です。
その為、長時間のフライトは、一定時間毎に体を動かすことを勧めています。

今のところ、【メディチ家の呪い】について研究チームは結論を出していません。
ですが、現状を見る限りでは、血栓による卒中ということになりそうです。
この症状は、例えば電球を取り替える時に上を見続けていたり、映画館で無理な体勢で映画を見たりしても起きることなので、皆さんも充分注意してくださいね。

桐生堂 : なるほど。中々面白いな。
鹿取 : …そうですか。それはよかったです。
桐生堂 : それにしても、これだけ証拠が揃っているなら、何故、研究チームとやらは結論を出さんのだ?
鹿取 : …はあ…私の情報が古いだけで、もう結論が出ているかもしれませんね。
桐生堂 : ということは、もう呪い…ではなかった。卒中は起きていないということか?
鹿取 : 騒がれなくなっただけ、という見方もできますが、起こらなくなったと見るのが素直な見方でしょう。
桐生堂 : 解呪に成功したということだな。
鹿取 : そういう言い方もできますね。
桐生堂 : それにしても、幽霊とはどこにでもいるものだな。
鹿取 : …はあ…確かにメディチ家の呪いも、当初は幽霊を見た、というところから始まってますしね。
とにかくヨーロッパは権力争いの結果が悲惨な虐殺に繋がることが多いです。
幽霊がこの世に対する未練や恨みを抱いたものとするならば、出てくるのも当然な状態です。
桐生堂 : そんなにお互いが嫌いなのか?
鹿取 : …どうでしょう?
桐生堂 : しかし、個人的には、『卒中』ではなく、『メディチ家の呪い』とした方が宣伝効果は高いと思うが。
鹿取 : 確かにそういう見方もありますね。
ですが、呪いが関係している建物がフィレンツェ観光の目玉ばかりというのでは、普通の観光客がやってきませんよ。
桐生堂 : …なるほど。何事も程ほどがいいというが、この呪い騒ぎは程ほどを超越しているということだな。
鹿取 : そうなりますね。
桐生堂 : 時に、鹿取は呪いの類は信じるか?
鹿取 : …はあ…私はそういうことは信じない方ですが…
桐生堂 : そうか。それがいい。
鹿取 : 桐生堂さんはいかがですか?
桐生堂 : 私に呪いの類は効かん。
意趣返しで術者に跳ね返るだけよ。
鹿取 : …はあ…
桐生堂 : 呪いなんぞ、根暗な悲喜交々のママゴトよ。
恐れるほどのことはない。
鹿取 : …はあ…きっと『悲喜交々』ではなく、『引き篭もり』ですね。
桐生堂 : そうとも言うな。
鹿取 : …はあ…そうですね。
桐生堂 : むー そうそう。
夏といえば、という話題を一つ私も振ろうではないか。
鹿取 : …はあ…なんでしょう?
桐生堂 : 夏ということで、サマースラムが近づいてきた。
鹿取 : …zzz…
桐生堂 : 鹿取はサマースラムを知っているか?
鹿取 : …いいえ。存じませんが…
桐生堂 : むー 困った。
安曇から聞いたのだが、私もサマースラムがなんたるかをまったく知らん。
鹿取 : 知る必要はないと思いますね。
桐生堂 : む?謎のサマースラム…これがメディチ家の呪いか!?
鹿取 : 繋がりが不明ですね。
桐生堂 : むー
鹿取 : サマースラムはさておき、夏といえば、かき氷ですが、桐生堂さんはどのシロップがお好みですか?
桐生堂 : うむ。基本は水を食べるが、渡貫が作った青いかき氷はうまかったな。
鹿取 : ブルーハワイですね。
それでは、これから渡貫君のところに行ってお願いしてみましょう。
桐生堂 : 奴は寮にはいないぞ。
鹿取 : …はあ。特別編ということで試写室にいるのは分かっていますので問題はありませんね。
桐生堂 : よし。ならば、早速、向かうとしよう
鹿取 : そうですね。
桐生堂 : その前に、メディチ家の呪い、メディチ家の呪いと…
ふっふっふ…これで渡貫や長澤にど忘れ二・三・四字熟語活用辞典を渡されずに済むぞ…





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